2008年06月09日

(開運のすすめ)応尚書の事例と、通産省を作った白州次郎

(開運のすすめ)応尚書の事例と、通産省を作った白州次郎

 毎週月曜日は、永淵道彦先生の教示「開運のすすめ」の一説を紹介しています。


応尚書の事例

【現代語訳】
 台州の応尚書は、壮年のころ、山の中で勉強していた。夜になると鬼どもが声をかけあった集まり、時々人を驚かせるが、公は少しも懼(おそ)れなかった。

 或る夜、鬼が、
「だれそれの家の嫁は、夫が長い間他国へ行って帰って来ないので、その舅と姑にせまられて他家へ嫁入りさせられようとした。それを苦にして嫁は明晩このところで縊死(いし)するであろう。そこで自分はその夫に代わりその家に行ってやろう。」
と、話しているのを聞いた。

 公は気の毒に思い、ひそかに自分の田地を売って、銀四両を得、ただちにその夫の手紙を偽作して、銀(かね)と添えてその家に送りとどけた。その父母たちは手紙を見て、どうも筆跡が夫のと似ていないので不思議に思ったが、しばらくして、
「手紙はいつわり書くこともできるが、銀を本物で間違いない。してみると多分倅は無事であろう。」
ということで、嫁はそのまま嫁ぐことをせずにすんだ。
 後になって、その子は家に帰って来、もとのように夫婦仲よく暮らすことができた。

 ところが、ある夜また、公は鬼の話すのを聞いた。
「自分は彼の夫に代わってその嫁を妻とすることができたのに、この秀才が自分の計画をこわしてしまった、困ったことだ。」と。
 するとそばにいた別の鬼がいうには、
「お前はなぜそのようなことをされたのに、報復の禍を下してやらないのか」と。
 前の鬼がそれに答えて、
「それは、天帝は、この人が善い心を持っているので陰徳尚書と命名しているほどであるから、どうしてもこの人に禍を下すことができないのだ。」
というのを聞いて応公はますますみずから努力勉強し、日々善事を行い、日々徳行を積んでいった。

 たとえば、凶年にあえば、すぐに穀物を民に施してこれを賑わしてやり、また親戚に困ったことでも起きれば、ただちに細々と救ってやり、非道を行うようなものがあれば、すぐさま自分の身を反省し、責め、快く素直に受けた。

 このようなわけであるから、公の子孫で進士の試験に及第するものはいまに至るまで、累々と重なり続く有様である。

【読  釈】
 ここでは、自ら努めて善事に励むことが語られている。本当に自分の心からのものならば、たとえ人に知られなくても、真心からそれを実行すべきである。このような善行を陰徳という。本来、善行とはこのようなものであり、代償を期待したり、求めるようなものなら善行と言えない。
 このような行為はこの世を明るくするものであり、自然の理である天意に適うものであると言える。このような陰徳の善行は心すべきことではあるまいか。

【感  想】
 先週末から、太平洋戦争終了後のGHQの占領下で、日本の独立、復興に奔走した、白州次郎氏の伝記を読んだ。60年の時を越えた、史実を読み進む中で、吉田首相の補佐に徹し、政界へ興味を示さず、常に徒労の多い裏方に徹し、日本国憲法制定、講話条約、通商産業省、電力事業再編と、戦後の繁栄に礎を創った方ですが、目途が着けばサッとその地位を後任に任せ、百姓にもどる生き方には、感銘を受けました。

 白州氏は、大学生活をイギリスで7年学び、ジョントルマンの気質を持つ紳士ですが、そのルーツは、祖父まで三田藩の儒教の先生の家系であり、幕末には、三田藩の財政再建、殖産興業に努めた人物の末裔であること知り、その志の高さを知りました。
 
 今日の教えは、知られずに、どんなに小さな善事でも、いつか人々の知れるものと例えと思います。そして、見返りを求めてする行為は、いずれ自ずと知れ、陰徳との違いは長い時間をかかって、歴史が証明するのだと思います。

 白州次郎氏は、遺言は「葬式無用、戒名不用」だったそうです。そのお蔭で、60年近い年月をたって、知ることになるのですが、孔子の言葉に、「人に知られずとも患えず」とありますが、こころから社会奉仕こそ、自分を高め、周りを明るくすることなのかもしれません。

 日常は田舎に暮らし、中央で事が起こると、万事を捨てて「いざ鎌倉」と、改善に奔走し、目途が立てば後は、後任に任せて、また田舎の生活に戻るような人物を、「カントリー・ジェントルマン」とイギリスでは言い、高く評価していると言います。

 日本では、江戸中期の儒学者、熊沢蕃山が似たような一生を送っています。白州氏は、儒家のDNAと、イギリスで培ったジェントルマンの教育で、昭和では稀に見る、無欲のリーダーだったのかもしれません。

今日は、少々、長文になりました。最後までお読み頂きありがとうございました。



・開運のすすめ~『陰隲録』に学ぶ~(永渕道彦訳)
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