2008年11月30日

(日々の工夫)「考えるとは・・」ある教養学教授のエッセイより

(日々の工夫)「考えるとは・・」~ある教養学科の教授のエッセイより~

 私は大学生活において、学生たちに中学・高校のとき以上に、「考える」ということを大事にしてほしいという短い話をした。そして、「じゃあ、考えるって何でしょう」と投げかけた。そのうえで、「考えるとは工夫することじゃないでしょうか」と以下のような砕けた俗っぽい例を話し、自論を披露しておいた。

(事例1)
 ある作家が言っていたことがある。子供時代のことで、名門私立中学を受験させられ、努力をしたがもう一歩の自身がない。そこで願書を持参提出する折り、すぐに提出せず受付の事務室の横にいて、やって来る他の受験生を待ち構え吟味して、しっかりした願書提出の受験生のすぐ後に自分も提出した。
 しっかりした受験生のすぐ後ろの机での受験を狙ったのである。カンニングを狙ったわけではない。しっかりした受験生の後ろの机で観察し、その受験生の行動を参考にすることを狙ったのである。その効果があったかどうか、とにかく合格したという。

 低級な俗っぽい工夫であるが、これなどは「考える」というメカニズムをよく示していないだろうか。低級な工夫であろうが、高級な工夫であろうが、その工夫の効果が無ければ「考えること」にならないし、効果があれば低級な工夫でも「考えた」ということじゃないか。もっと気楽に工夫し考えることを心掛けようではないかと披露した。

(事例2)
 私も以下のような経験がある。中学3年の11月下旬に岡山県から福岡県に転校した。まさか高校受験間近に控えての転校である。少子化の今の時代と違いベビーブームの時代の過激な受験であり、高校受験の制度は県ごとに違っており、まして3ヵ月余後が受験である。
 偶然であるが、転校した私は黒木君という優秀な生徒の隣の机を与えられた。工夫するもしないも、優秀 な彼を始終、観察し、必死に参考にしたり真似をした。転校した中学は一月に2回の外部試験があったが、私の模擬試験の成績は、みるみる上昇し、参考にされた真似された隣の机の黒木君がびっくりしていたものである。

 このような経験があった私には、先に述べた作家の話はすごく賢明を受け、「工夫なくして考えなし」と胆に銘じたわけである。「考えろ考えろ」と抽象的に迫られてもなにをそうすればいいのかわからないのは当然なことである。異論はあろうが、なんらかの工夫することが考えることじゃないか、というのが私の自論であるがいかがであろうか。

(事例3)
 警察キャリアとして主席観察官だの何だのと全国を回っている後輩がいる。高校は中くらいの進学校であり、勉学に尽力したにもかかわらず、その高校では中の下であったという。このままの努力ではどうにもならない、大学、そして社会人と、生きていく上でどうしたらいいだろうと考えたという。みんなと同じことをしてても駄目だ、うだつが上がらないと随分と考えたという。工夫しなくちゃと工夫したというのである。この折の工夫するという姿勢がこんにちの自分の出発点になっているという。

 つまりは「工夫なくして考えなし」ということである。工夫も多種多様であろうが、どのような工夫をするるか、各自でそれこそ工夫してほしいが、このような私の自論はいかがであろうか。(以上、永淵先生のエッセイより転載)

(感想)
 工夫するには考えることが必要。要は、頭の中でいろいろ考えてばかりで、実行に移さなければ机上の空論でしかないという事だと思います。
 陽明学に、「知行合一」という考えがあるが、「要は考える事は即実行する」、逆に「実行する事を考える」とも言えますが、工夫こそ実践の行為と思います。先を見越して、日々の生活の中で工夫すること、これこそが「工夫なくして考えなし」の智恵なのかもしれません。 



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Posted by ノグチ(noguchi) at 17:56│Comments(0)故事、名言、訓示、スピーチ
 
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